大判例

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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)284号 判決

原告

株式会社アイジー技術研究所

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁護士

赤尾直人

同弁理士

【B】

被告

東北ユーロイド工業株式会社

代表者代表取締役

【C】

訴訟代理人弁護士

小池豊

同弁理士

【D】

補助参加人

中鋼株式会社

代表者代表取締役

【E】

訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

同弁理士

【F】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成9年審判第16465号事件について、平成10年8月6日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告及び補助参加人

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、意匠に係る物品を「建築用内外装材」とし、その形態を別添審決書写し別紙第一記載のとおりとする意匠登録第700535号意匠(昭和58年3月25日登録出願、昭和61年11月28日設定登録、以下「本件意匠」という。)の意匠権者である。

被告は、平成9年9月30日、本件意匠につき登録無効の審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成9年審判第16465号事件として審理した上、平成10年8月6日、「登録第700535号意匠の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同月19日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件意匠が、昭和51年3月8日に公開された実開明51-31435号公開実用新案公報(審決甲第6号証の2、本訴甲第3号証、以下「引用例」という。)所載の第2図に示された意匠(以下「甲号意匠」という。)と、意匠に係る物品が共し、その形態において互いに類似するものであるから、意匠法3条1項3号に該当し、同法同条柱書の規定に違反して登録されたものであるので、その登録を無効とするとした。

第3  原告主張の取消事由の要点

審決の理由中、本件意匠が、意匠に係る物品を「建築用内外装材」とし、その形態を審決書写し別紙第一記載のとおりとすること、甲号意匠が、意匠に係る物品を「建築用板」とし、その形態を同別紙第二記載のとおりとすること、両意匠が意匠に係る物品を共通にすること及び差異点〈3〉の評価(審決書17頁14~18行)は、いずれも認める。

審決は、両意匠の全体形状に関する認定を誤る(取消事由1)とともに、横溝の有無に関する評価を誤り(取消事由2)、雄接合部及び雌接合部を誤認するとともにその評価も誤った(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(全体形状に関する認定の誤り)

1 審決は、甲号意匠の全体形状に関して、「薄い板材から成る表面材と裏面材とにより外形を形成し、・・・表面材及び裏面材の大部分を平坦面とし」(審決書12頁4~7行)と認定するが誤りである。

すなわち、引用例(審決甲第6号証の2、本訴甲第3号証)の第2図によれば、甲号意匠に裏面材が存在しないことが明らかであるにもかかわらず、審決は、これを存在するものとした上、「平坦面」と誤認している。被告が主張するように、審決は、引用例の第1図及び第2図の意匠を甲号意匠として本件意匠と対比したものではない。

しかも、甲号意匠における雄接合部の先端突出部分は、充填材の裏面よりも更に上下方向において裏面側に突出しており、同様に、雌接合部の裏面側突出部分も、充填材の裏面よりも裏面側に突出しているにもかかわらず、審決はこのことに言及していない。

甲号意匠は、上記の形状により、板状体全体が、上端の雄接合部及び雌接合部から上下方向に浮き上がった印象を与え、かつ、裏面全体が不連続な印象を与えるのに対し、本件意匠の裏面は、連続した平坦形状を形成し、板状体全体が浮き上がっていない安定した印象を与え、かつ、裏面が平坦な印象を与えるから、両意匠が全体形状において与える印象は、明らかに相違する。

2  本件意匠の表面における横溝の傾斜辺は、雄接合部の表面との接続領域たる傾斜辺、及び雌接合部の嵌合凹部を形成する中間辺と平行であり、他方、横溝の直交辺は、雄接合部の表面側突出部分の端辺と平行であって、これらの平行状態は、本件意匠の全体観察において、興味あるサイクリック(注、循環的、周期的)な印象を与える。

これに対し、甲号意匠においては、横溝が存在しないため、このような印象を与えることはあり得ないにもかかわらず、審決はこのことに言及していない。

3  審決は、本件意匠と甲号意匠との基本的構成態様における共通点として、「全体を断面形状が一様な長尺板としたもので、薄い板材から成る表面材と裏面材とにより外形を形成し、内側に断熱材を充填して成る肉厚の板材であって、表面材及び裏面材の大部分を平坦面とし、左右端部に表面材を凹凸状に折曲して成る雄接合部及び雌接合部を形成し」(審決書13頁2~8行)と認定するが、板材を断面形状が一様な長尺板とし、表面材及び内側の断熱材により肉厚の板材を形成することは、建築用内外装材として当然の事項であって、このような共通性をもって、両意匠が類似する程度の「全体の基本的構成態様」が存在すると認定することはできない。

また、建築用内外装材が、左右両端部の雄接合部及び雌接合部によって、順次接合する以上、表面材を凹凸状に折曲してなる雄接合部及び雌接合部を形成することも、建築用内外装材として当然に要請されるべき事項であって、このような雄接合部及び雌接合部の存在をもって、両意匠が類似する程度の「全体の基本的構成態様」が存在すると認定することはできない。

つぎに、審決は、両意匠の基本的構成態様における共通点として、「左側の雄接合部について、表面材の端部を斜状に折曲し、これを左辺中央で折曲して突出部分を形成し、さらに、略コ字状に折曲して先端部分を裏面側へ長めに突出片を形成したものとし、右側の雌接合部について、表面材を略コ字状に折曲して、突出部分を形成し、これを右辺中央で略逆コ字状に折曲して嵌合凹溝を形成し、さらに、端部を略U字状に裏面側へ折り返して、折り返し部分を形成した」(審決書13頁8~16行)と認定するが、審決が、両意匠の差異点〈2〉及び〈4〉の評価において、「突出片及び嵌合凹溝の傾斜角度の差異並びに突出部がU字状か否かの差異は、嵌合手段を同じくするこの種の建築用板材においては、細部における部分的で微弱な差異といえるので、両意匠の共通する基本的構成態様が醸成する共通した印象に埋没してしまう程度のものであって、両意匠の類否判断上未だ微弱なものに止まる」(審決書17頁7~13行)と判断する以上、前記の、表面端部との接合部分が「斜状」であること、先端突出部分と中断突出部分との接続領域が「略コ字状」であること、表面側突出部が「略コ字状」であり、裏面側突出部が「略U字状」であり、かつ、嵌合凹溝が「略逆コ字状」であること自体は、両意匠の類否を裏づける要因となり得ないはずである。

そうすると、両意匠の類似関係を裏づけるはずの「全体の基本的構成態様」は、「雄接合部における、表面端部を接続する折曲部分─上下方向の略中央における中断突出部分(折曲突設部分)─折曲による接続領域部分─裏面側における長めの先端突出部分」と、「表面材を折曲した表面側突出部分─右辺中央における折曲による嵌合凹溝─裏面側への折り返しによる裏面側突出部分」となるが、このような接続関係に基づく形状は千差万別であって、このような特徴からは、意匠の構成要件となる形状を特定することができない。すなわち、本件意匠と甲号意匠が類似することの論拠である、上記の全体の基本的構成態様の共通性は、概念上のものにすぎず、両意匠が具体的に類似することを裏づける、形状の特定を伴った構成要件としての共通性に該当しないものである。

甲号意匠が公開された昭和51年3月8日よりも後に出願され、上記のような上位概念による雄接合部及び雌接合部の接続関係を充足している登録意匠は、別表1(原告第1準備書面添付のもの)のとおりであり、このことは、上記のような概念上の共通性をもって意匠の類似性を裏づけることができないことを示している。

2  取消事由2(横溝の有無に関する評価の誤り)

1 本件意匠は、表面の左右方向略中央位置に略不等辺台形をなす横溝が存在することによって、表面が起伏を呈する印象を与えているのに対し、甲号意匠においては、横溝が不存在であるため、このような印象を与え得ない。

しかも、横溝は、略中央位置に存在し、本件意匠の要部を包摂する以上、上記印象の相違は、明らかに両意匠の非類似性を裏づけている。

2 審決は、この点に関して、「両意匠はその施工後の態様に多数の横溝が等間隔に表れるものでもあり、結局、表面の略中央の横溝の有無による差異については、前記に共通するとした全体の基本的構成態様に包摂されてしまう程度のもの」(審決書16頁12~16行)と判断するところ、使用の段階ではこの判断に誤りはないが、施工を終了した段階では、要部である断面形状を観察することは不可能であるから、建築用内外装材の意匠を特徴づける断面形状は、必然的に使用前の製造及び譲渡の段階における実施例において判断されることとなる。しかも、製造及び譲渡の段階では、各建築用内外装材は、接続前の単体として存在している以上、審決の認定のように、使用段階における接続状況を問題とすることに意味はない。

3  また、審決は、「本件登録意匠のように表面材のほぼ中央に略倒コ字状又は略台形状の横溝を設けることは、本件登録意匠の出願前より普通に行われているところであって(例えば、甲第7号証(注、本訴甲第4号証。以下「周知例1」という。)の意匠登録第371386号の意匠、甲第8号証(注、本訴甲第5号証。以下「周知例2」という。)の意匠登録第380554号の意匠、甲第10号証(注、本訴甲第7号証。以下「周知例3」という。)の意匠登録第493077号の意匠)、本件登録意匠のみにみられる格別の特徴ともいえないものであり、形態全体からみた場合、部分的で軽微な差異というほかはない。」(審決書15頁8~16行)と判断するが、周知例1の意匠の横溝は略矩形状であり、周知例2の意匠の横溝は略二等辺三角形状であり、周知例3の意匠の横溝は略台形状であって、いずれも左右対称形状を呈しており、本件意匠のような不等辺台形の形状による横溝とは形状が明らかに相違しているから、上記審決の判断は、表面の略中央位置に横溝を設けるという上位概念の構成が、本件意匠の出願前に知られている旨を説示していることに帰するが、このような概念論によって、横溝の存在が類否を左右しないという結論を導くことはできないというべきである。

別表2(原告第1準備書面添付のもの)は、横溝の存否を除く全体形状、とりわけ、左右の雄接合部及び雌接合部が殆ど同一でありながら、横溝の存否によって、それぞれ独立した意匠登録が行われた登録意匠を示したものである。

しかも、上記の審決の判断は、意匠の創作性に、特許又は実用新案の創作性のレベルを持ち込んだものであって、明らかに創作性に関する判断基準も誤っている。

4  審決は、本件意匠の横溝のような不等辺台形の形状について、「昭和57年6月22日発行の意匠公報(注、本訴甲第8号証。以下「周知例4」という。)に所載、意匠登録第493077の類似第7号の意匠は、表面の略中央に横溝を設けたものであり、そうして、その横溝を詳細にみると、溝幅がやや幅広に表されているものの本件登録意匠と略同一の態様をなすものであり、また、甲号意匠も、その使用態様にあって、接合部に表される横溝の溝幅がやや幅狭に表れるものの本件登録意匠と略同一の態様をなすものであり、溝幅の広狭において差異があるとしても、それが、本件登録意匠における顕著な特徴をなす程のものとはいえず」(審決書16頁2~12行)と判断するところ、周知例4に略不等辺台形の形状の横溝が開示されていることは認めるが、本件意匠においてこのような横溝を設けることによって、これが存在しない甲号意匠と異なる印象を与えることは、類否を左右する程度の創作性を具備することを裏づけるものである。

5  審決が、「前記、甲第7号証及び同第8号証、第10号証の意匠は、本件登録意匠の出願より4年乃至9年以上も前のもので、既に周知の態様であることが認められ、この点が、本件登録意匠の出願時において周知ではないという、被請求人の主張は採用できない。」(審決書17頁1~6行)と判断したことも誤りである。

すなわち、周知例1~3の意匠は、前述したとおり、不等辺台形の形状の横溝を開示しておらず、その周知性を裏づけるわけでない。これらの周知例が公開されてから、4~9年を経過したことは、これらの周知例において、左右の雄接合部及び雌接合部と一体になった横溝の形態が、ある程度知られるに至ったことを意味するだけであり、他の建築用内外装材において、本件意匠のような特定の形状の横溝を設けることが、ありふれた態様であることを裏づけるものではない。

3 取消事由3(雄接合部及び雌接合部の誤認及び評価の誤り)

1 本件意匠と甲号意匠は、ともに雄接合部において先端突出部分、中段突出部分及びその接続領域が存在する点において共通するが、以下のように具体的形状において相違している。

すなわち、本件意匠の雄接合部の中段突出部分は、先端が湾曲した略V字形状を呈し、これによって、上下方向において起伏に富んだ印象を与えているのに対し、甲号意匠の中段突出部分は、略コ字形状を呈しており、これによって、起伏に乏しい印象を与えている。中段突出部分から先端突出部分への接続領域においても、本件意匠は、裏面に対する直交辺、両側の先端突出部分及び中段突出部分の傾斜状態である裏面側辺とによって、不等辺台形の頂部形状を呈することにより、起伏に富んだ印象を与えているのに対し、甲号意匠では、狭幅の略U字状を呈しているにすぎず、起伏に富んだ印象を与えない。本件意匠の中段突出部分は、上下方向の略中央に位置し、上下方向においてバランスある印象を与えるのに対し、甲号意匠の中段突出部分は、中央位置から略裏面側半分に位置し、このような印象を与えない。

また、本件意匠の中段突出部分の表面側辺は、裏面側辺よりも、左右方向において略2倍あるので、中段突出部分から先端突出部分への接続領域は、中段突出部分の表面側辺の内側端部よりも明らかに先端側に位置し、このような配置によって、本件意匠の雄接合部は、中段突出部分の上側接続領域と下側接続領域とが、順次裏面にかけて伸長し、左右方向においても起伏に富んだ印象を与えている。これに対し、甲号意匠の中段突出部分の表面側辺と裏面側辺とは、略同一長さであるので、中段突出部分と先端突出部分との接続領域と、中段突出部分と表面側辺の内側端部とは、左右方向において略同一位置にあり、全体としてずんぐりとした印象を与えている。

2 本件意匠と甲号意匠は、ともに雌接合部において表面側突出部分、裏面側突出部分及び両者の間に介在している嵌合凹溝が存在する点において共通するが、以下のように具体的形状において相違している。

すなわち、本件意匠の雌接合部では、裏面側突出部分の内側辺が傾斜状況にあるため、裏面側突出部分は、先端が湾曲した略V字形状を呈し、これによって、上下方向において起伏に富んだ印象を与えているのに対し、甲号意匠の裏面側突出部分は、単なる表面材の折り重ねにすぎないため、先端が湾曲した略I字形状を呈しているにすぎず、起伏に富んだ印象を与えない。本件意匠の嵌合凹溝の中間辺が、横溝の傾斜辺と平行をなし、表面側突出部分の内側辺及び裏面側突出部分の傾斜内側辺と接続しており、上下方向に起伏に富んだ印象を与えるのに対し、甲号意匠の嵌合凹溝は、双方の内側辺と直交辺が略逆コ字状を呈しており、起伏に富んだ印象を与えない。本件意匠の嵌合凹溝は、上下方向の略中央に位置し、上下方向においてバランスある印象を与えるのに対し、甲号意匠の嵌合凹溝は、中央位置から略裏面側半分に位置し、このような印象を与えない。

また、表面側突出部分と裏面側突出部分の突出の程度が、本件意匠においては約2:1であり、表面側突出部分が大きなウエートをもってその存在を印象づけるのに対し、甲号意匠では約1:2であり、逆に、裏面側突出部分の存在を印象づけている。

3 審決は、甲号意匠の雄接合部において、中段突出部分が上下方向中央に位置していないにもかかわらず、「左辺中央で略矩形状に折曲して突出部分を形成し」(審決書12頁10~11行)と認定し、この認定を両意匠の共通点と認定している(同13頁9~10行)点、雄接合部の中段突出部分における表面側辺と裏面側辺の長さの相違について認定・評価を行っていない点、甲号意匠において、雌接合部の嵌合凹溝が上下方向略中央に位置していないにもかかわらず、「右辺中央で略逆コ字状に折曲して嵌合凹溝を形成し」(同12頁14~15行)と認定し、この認定を両意匠の共通点と認定している(同13頁13~14行)点、甲号意匠の雌接合部の裏面側突出部分が重ね折り返しのため、先端が湾曲した略I字形状を呈しているにもかかわらず、「略U字状に裏面側へ折り返し」(同12頁16行)として、あたかも一定の厚みを有しているかのように認定し、この認定を両意匠の共通点と認定している(同13頁15~16行)点において、明らかに認定評価を誤っている。

4 審決は、差異点〈2〉及び〈4〉の評価において、「突出片及び嵌合凹溝の傾斜角度の差異並びに突出部がU字状か否かの差異は、嵌合手段を同じくするこの種の建築用板材においては、細部における部分的で微弱な差異といえる」(審決書17頁7~10行)と判断するが、建築用板材においては、雄接合部及び雌接合部以外の領域は、表面及び裏面が原則として平面形状を呈しているにすぎず、当該領域の占める割合が全体形状の中で大きいとしても、当該領域自体が意匠の特徴点として、看者に格別の印象を与えるわけではなく、雄接合部及び雌接合部が要部に該当することは否定できないから、上記の判断は誤りである。また、審決は、差異点〈5〉の評価において、「この種の態様をなす建築用の板材にあっては、折り返し部分の長さを適宜変更する程度のことは、極めて普通に行われているところであって、ありふれた態様の中で常套的になされる変更の範囲内での差異といえ、形態全体としてみた場合、細部における部分的で軽微なものといえ、類否判断に大きな影響を与える程のものとはいえない。」(審決書17頁19行~18頁6行)と判断するが、裏面側突出部分の折り返し部分の長さを、表面側突出部分との対比においてどの程度とするかは、建築用内外装材の形状に関する事項である以上、これが常套手段であるとしても、意匠の類否判断と無関係であるとはいえないから、上記審決の判断は誤りである。別表1の各意匠においても、雌接合部における表面側突出部分と裏面側突出部分との突出の程度は、略同一であるか、異なるとしてもさしたる相違を呈しておらず、本件意匠及び甲号意匠の場合のように、突出の程度が1/2又は2倍という状況は見当たらない。

4 被告及び補助参加人は、原告が被告に対して建築用内外装材の製造販売等の差止めを求めた仮処分事件(盛岡地方裁判所花巻支部平成7年(ヨ)第28号事件、以下「別件事件」という。)における、原告(債権者)の主張を引用し、本件事件における原告の主張が、禁反言の原則からして許されないと主張するが、本件事件は審決取消訴訟であって別件事件とは無関係であるから、被告らの主張は失当である。

また、被告及び補助参加人は、本件意匠の類似意匠の登録を根拠に本件意匠の類似範囲を解釈して主張するが、類似意匠の存在は、本件意匠の意匠の解釈においての事実上の斟酌資料であり客観的な認定上の拘束力は有しない。なお、原告は、本件意匠の類似意匠を権利放棄したものである(無効審決が確定した、類似26、27、31、32号の意匠を除く。)。

第3  被告及び補助参加人の反論の要点

1  取消事由1について

1 被告(審判請求人)が審判において無効の理由として引用した引用例(審決甲第6号証の2、本訴甲第3号証)の第1図及び第2図では、表面側及び裏面側ともいずれも1本の外形線のみで表現されたものであり、このように全く同じ表現がなされた構成については、同様に解すべきであって、一方に表面材があり、他方に裏面材がないと解する理由はない。確かに、上記第2図では、1本の外形線のほかに板材に相当する厚みを持ったものが直接記載されてはいないが、実用新案に係る図面は、形状を余すところなく特定して記載する意匠図面とは異なり、その技術内容を示すに必要とされる限度において記載されるものであるし、裏面中空部に裏打材が充填される旨の引用例の明細書の記載からみても、審決の認定に誤りはない。

しかも、この種板材においては、発泡ウレタン等の裏打材を充填する板材を製造する場合、何らかの裏面材を設けることがなければ治具と発泡材が付着し、生産に著しい困難が伴うもので、通常、裏面材を設けることが当業者の知識である以上、当業者のこの知識を基にする図面解釈としても、審決の認定は極めて自然なものである。

仮に、裏面材がないとしても、その外形にかわりはなく、意匠は物品の形状、すなわち外形であるから、多くの構成において共通する本件意匠と甲号意匠の類否の結論に直接影響するものではない。しかも、実際のこの種板材の裏面材は、0.15mm程度のごく薄いものであるから、板材の外形を見る場合には、発泡ウレタン等の充填材の外形と一体として認識されるものであり、板材の外形としての意匠において、この点が意匠の類否を左右する大きな要素になるものではない。なお、甲号意匠の裏面材の大部分が平坦面であることは、図面の記載から明らかである。

ところで、本件意匠には、別表3(乙第1号証)のとおり、類似1~39号の多数の類似意匠が存在し、原告が、甲号意匠と相違すると強調する本件意匠の各種の構成部分についても、その大半が各類似意匠との間では相違点が存在するものであり、原告の取消事由に関する主張は、これらの類似意匠の存在とも矛盾するものである。その詳細は別表4(被告第1準備書面添付のもの)のとおりであるが、例えば、甲号意匠は、板状体全体が雄接合部及び雌接合部から上下方向に浮き上がった印象を与え、裏面全体が不連続な印象を与えるのに対し、本件意匠の裏面は、連続した平坦形状を形成している旨の主張については、類似3、4、6、8、9、11、12、18~23、28、29、31~33、36、39号の意匠は、裏面材が平坦ではなく明らかに段差を有しており、これらの類似意匠の存在は、原告の上記主張と相容れない。

2  甲号意匠における充填材の裏面と、雄接合部の先端突出部分及び雌接合部の裏面側突出部分との、上下方向の配置関係については、原告も審判段階で指摘しておらず、審決も、これを微差として言及しなかったにすぎない。

しかも、接合部の裏面側の位置が裏面全体より大きく突出したものに本件意匠の類似25号の意匠があり、また、接合部の裏面側に段差を設けたものが、類似3、4、6、8、9、11~13、18~20、22、23、28、29、31~33、36、37号の意匠があるから、裏面側における上下方向の配置関係が本件意匠と甲号意匠とで相違するとする原告の主張は、ほとんどの類似意匠が、本意匠である本件意匠と裏面側の上下方向の配置関係において相違することを無視したものである。

3  本件意匠における横溝と雄接合部及び雌接合部との結合関係が、サイクリックな印象を与えるとの原告の主張は、全体の構成の中から一部の構成を恣意的に採り上げて「結合関係」と称するものであり、こじつけに等しい議論であるから、審決がこの点について言及しなかったのは当然である。

2  取消事由2について

本件意匠の表面は、審決が認定するように「表面材・・・の大部分を平坦面とし、表面の略中央に略台形状の横溝を設け」(審決書10頁18~20行)たものであり、横溝の存在によって、原告が主張するような「起伏」を呈する印象を与えるものではない。また、審決が使用段階における接続状況を考慮した点(同14頁15行~15頁3行)について、需要者は、物品の購入に当たり、その物品が使用される場合にどのような態様を呈するかを念頭におくのが普通であるから、その点を考慮するのは当然であり、審決の判断方法や結論に誤りはない。

審決は、横溝の有無が本件意匠と甲号意匠との差異点であると認定した上、これを形成した態様が形態的特徴となるか否か、甲号意匠と別異のものとみるべき特徴となるか否かを、従来意匠を参酌して考察したものであり、その判断は全く正当である。原告のように、横溝を形成する一部の構成である傾斜辺や直交辺と、接合部を形成する一部の構成である辺とを、全体との関連を抜きにその部分のみを取り出して、これらを無理に関連づけて、あたかもこの点が意匠全体の類否を支配するかのように判断することが誤りである。

そして、審決の認定のとおり、外装材の表面中央部に溝部を設けることは周知慣用であり(周知例1~4及び乙第11~第17号証)、このことは、原告が、本件意匠の類似26号の意匠の出願を拒絶された際の審判請求書(乙第6号証)において、横溝を設けることが容易に行える旨を自ら認めていたことからも明らかである。

なお、原告自身が、横溝のない本意匠に対する類似意匠として、横溝の存在するものを出願しその登録を受けており(乙第7~第9号証)、その他にも同様の関係を有する本意匠と類似意匠の出願も登録されている(乙第18、第19号証)のであるから、横溝の存否が意匠全体の類否を決定づけるものでないことは明らかであり、原告の主張はここでも矛盾している。

3  取消事由3について

接合部の構成態様に関しては、本件意匠と甲号意匠との当該部分の構成の差異よりもはるかに差異の大きな意匠が、本件意匠の類似意匠として登録を受けており、この点に関する原告の主張には理由がない。

したがって、差異点に関する審決の判断(審決書15頁4行~18頁9行)に誤りはない。

4  原告は、別件事件において、本件意匠の左右両側面の接合部の形状が、意匠の範囲認定の必須要件とならないと述べており、同事件において本件意匠の権利範囲を極めて広く主張する一方、本件訴訟では、権利を維持するために、微細な形状を本件意匠の構成であるとして、意匠の範囲を狭く主張しており、このような本件訴訟における主張は、禁反言の原則からして許されないことである。別件事件での主張によれば、本件意匠と甲号意匠との相違は、横溝の有無と裏面材の形状だけになるものといわなければならない。

また、原告が本件意匠の類似意匠をすべて放棄した(無効審決が確定した、類似26、27、31、32号の意匠を除く。)ことは、類似意匠に示された態様が本件意匠の類似の範囲に入らないことを認めたものといえる。しかも、類似意匠が放棄されたからといって、過去にこれらが本意匠に類似するものとして出願され登録された事実は消えるものではなく、本件意匠の類似の範囲を解釈するに当たって、当然、斟酌されるものである。

さらに、原告は、補助参加人を債務者として本件意匠等を被保全権利とする意匠権及び不正競争防止法に基づく仮処分事件(山形地方裁判所平成8年(ヨ)第9号事件)を提起しており、同事件では、別件事件と同様の主張を維持しているのであるから、類似意匠を放棄したからといって、従前の主張と矛盾する主張を本件訴訟において行うことは、信義則に反し、禁反言の法理からも許されない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由1(全体形状に関する認定の誤り)について

審決の理由中、本件意匠が、意匠に係る物品を「建築用内外装材」とし、その形態を審決書写し別紙第一記載のとおりとすること、甲号意匠が、意匠に係る物品を「建築用板」とし、その形態を同別紙第二記載のとおりとすること、両意匠が意匠に係る物品を共通にすることは、いずれも当事者間に争いがない。

1 審決は、甲号意匠について、「薄い板材から成る表面材と裏面材とにより外形を形成し、内側に断熱材を充填して成る肉厚の板材であって、表面材及び裏面材の大部分を平坦面とし」(審決書12頁4~7行)と認定する。

ところで、審決は、甲号意匠を開示する図面として、引用例(審決甲第6号証の2、本訴甲第3号証)の第2図を引用しているところ、同図によれば、表面側、裏面側及び当該建築用板材の周囲は、すべて1本の外形線で表現されており、板材に相当する厚みを持った形状のものは全く記載されてはいないから、同図を看取した当業者は、当該板材の形状を把握するに当たって、表面側に平坦な表面材が位置すると認識できるのと同様に、裏面側にもその向かって右側面が直線状の裏面材が存在するものと認識することが可能であるといわなければならない。

もっとも、引用例の第3図には、板材としての厚みを持った形状のものが記載されているところ、これによれば、当該板材の考案は、表面材と雄接合部及び雌接合部のみから構成されており、また、引用例における考案に関する明細書に裏面材についての記載が認められないことを考慮すると、引用例に開示された建築用板の考案自体は、裏面材が存在しないものであるとも推認される。しかし、この種板材においては、裏面中空部に発泡ウレタン等の裏打材を充填するとともに、何らかの裏面材を設けることが、極めて一般的な技術態様である(甲第9~第11、第15~第25、第31、第32、第34~第41号証)ことをも考慮すれば、引用例の第2図に接した当業者は、前示のとおり、裏面材が存在するものと認識することも可能であるから、甲号意匠に裏面材が存在するとした審決の認定に誤りはない。

また、甲号意匠の裏面側は、直接視認することができないから、裏面材の態様は一応不明といえるが、前示のとおり、裏面材の右側面は直線状態を形成しており、この種物品の形態における技術常識からして、直線状態の右側面の形状が左側面の形状と異なるものとは、通常、考えられないから、審決が、両側面が直線状態にある裏面材を想定して、その態様を「平坦面」と認定したことに、誤りはないといわなければならない。

原告は、甲号意匠における雄接合部の先端突出部分は、充填材の裏面よりも更に上下方向において裏面側に突出しており、同様に、雌接合部の裏面側突出部分も、充填材の裏面よりも裏面側に突出しているにもかかわらず、審決はこのことに言及していないと主張する。

しかし、前示のとおり、充填材の裏面に裏面材が存するとして、この裏面材と雄接合部の裏面側突出部分との上下方向における段差は、突出部分の板材の厚さ程度にすぎないし、裏面材と雌接合部の裏面側突出部分との段差は、雄接合部突出部分を嵌入できるような板材の折り返し幅程度であるから、いずれの段差もわずかなものであり、この点を「突出している」ものと審決が認定しなかったことに誤りはなく、原告の主張を採用する余地はない。

また、原告は、甲号意匠が、上記の形状により、上下方向に浮き上がった印象を与え、かつ、裏面全体が不連続な印象を与えるのに対し、本件意匠の裏面は、板状体全体が浮き上がっていない安定した印象を与え、かつ、裏面が平坦な印象を与えるから、両意匠の与える印象が明らかに相違すると主張するが、甲号意匠の裏面側の上下方向における段差が、前示のとおりわずかなものであり、裏面材自体が、その表面材に匹敵する程度の大きな平坦面を形成しているものと想定できることを考慮すると、甲号意匠が上下方向に浮き上がった印象を与えたり、裏面全体が不連続な印象を与えるものでないことは明らかであるから、上記主張も採用の余地がない。

2  原告は、本件意匠の表面における横溝の傾斜辺が、雄接合部の表面との接続領域たる傾斜辺、及び雌接合部の嵌合凹部を形成する中間辺と平行であり、他方、横溝の直交辺は、雄接合部の表面側突出部分の端辺と平行であって、これらの平行状態は、本件意匠の全体観察において、興味あるサイクリックな印象を与えると主張する。

確かに、横溝の傾斜辺は、雄接合部の当該傾斜辺及び雌接合部の当該中間辺と平行のように認識されるが、その垂直方向に対する傾斜の度合い及び上下方向での幅もわずかなものであり、特に、これが特徴的な循環的形状を有するものとして看者に意識されるとはいい難く、また、横溝の直交辺と雄接合部の当該端辺との関係については、単にいずれも表面材から垂直に立ち上げたものにすぎないから、看者に意匠上の特段の美感を与えるものではなく、原告の主張するような「興味あるサイクリックな印象」を与えるものとは、到底認められない。

3  原告は、審決における、本件意匠と甲号意匠との基本的構成態様の共通点の認定について、板材を断面形状が一様な長尺板とし、表面材及び内側の断熱材により肉厚の板材を形成すること、表面材を凹凸状に折曲してなる雄接合部及び雌接合部を形成することは、いずれも建築用内外装材として当然の事項であって、このような共通性をもって、両意匠が類似する程度の「全体の基本的構成態様」が存在すると認定することはできないと主張する。

しかし、建築用内外装材として当然に要請されるべき技術事項であるからといって、これが意匠を全体的に把握するための「基本的構成態様」と認定し、この点に共通性を見出すことが許されないものでないことは明らかであるから、原告の主張は失当といわなければならない。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書13頁2~8行)に誤りはない。

また、原告は、審決の差異点〈2〉及び〈4〉の判断(審決書17頁7~13行)からみて、表面端部との接合部分が「斜状」であること、先端突出部分と中断突出部分との接続領域が「略コ字状」であること、表面側突出部が「略コ字状」であり、裏面側突出部が「略U字状」であり、かつ、嵌合凹溝が「略逆コ字状」であることは、いずれも両意匠の類否を裏づける要因となり得ないはずであり、両意匠の類似関係を裏づける「全体の基本的構成態様」は、「雄接合部における、表面端部を接続する折曲部分─上下方向の略中央における中断突出部分(折曲突設部分)─折曲による接続領域部分─裏面側における長めの先端突出部分」と、「表面材を折曲した表面側突出部分─右辺中央における折曲による嵌合凹溝─裏面側への折り返しによる裏面側突出部分」となるが、このような概念上のものは、両意匠の具体的な類似性を裏づける、形状の特定を伴った構成要件としての共通性に該当しないと主張する。

しかし、審決は、差異点〈2〉及び〈4〉に関する当該判断において、本件意匠と甲号意匠との「突出片及び嵌合凹溝の傾斜、角度の差異並びに突出部がU字状か否かの差異」が、「細部における部分的で微弱な差異といえる」と判断しただけであり、これらが共通する限度において、両意匠の基本的構成態様の一部を構成することを否定するものではないから、原告の上記主張は、その前提において失当であり、審決は、単なる概念上の共通性を認定したものでもないから、別表1に関する主張も含めてこれを採用することはできない。

したがって、この点に関する審決の認定(審決書13頁8~16行)にも誤りはない。

2  取消事由2(横溝の有無に関する評価の誤り)について

1 本件意匠が表面の略中央に略台形状の横溝を設けているのに対し、甲号意匠が当該横溝を設けていないとする差異点〈1〉について、審決は、「この種の物品の意匠においては、本件登録意匠のように表面材のほぼ中央に略倒コ字状又は略台形状の横溝を設けることは、本件登録意匠の出願前より普通に行われているところであって」(審決書15頁7~11行)と判断するが、この判断は、審決掲記の周知例1~3(審決甲第7、第8、第10号証、本訴甲第4、第5、第7号証)及び周知例4(本訴甲第8号証)からみて正当なものと認められ、そうすると、審決が続いて本件意匠の横溝に関し、「本件登録意匠のみにみられる格別の特徴ともいえないものであり、形態全体からみた場合、部分的で軽微な差異というほかはない。」(同15頁14~16行)と判断したことにも誤りはない。

原告は、周知例1の意匠の横溝は略矩形状であり、周知例2の意匠の横溝は略二等辺三角形状であり、周知例3の意匠の横溝は略台形状であって、いずれも左右対称形状を呈しており、本件意匠のような不等辺台形の形状による横溝とは形状が明らかに相違しているから、上記審決の判断は、表面の略中央位置に横溝を設けるという上位概念の構成が周知であることを説示しただけであり、このような概念論によって、横溝の存在が類否を左右しないという結論を導くことはできないと主張する。しかし、本件意匠の略台形状の横溝は、前示のとおり、傾斜辺の垂直方向に対する傾斜の度合い及び上下方向での幅がわずかなものであり、周知例1、3の横溝の形状と大きな差異は認められず、特に、周知例4は、本件意匠と同様の略台形状の横溝を開示しているから、本件意匠のように「表面材のほぼ中央に略倒コ字状又は略台形状の横溝を設けること」が周知であるとする審決の判断に誤りはなく、単に表面の略中央位置に横溝を設けるという上位概念の構成を開示したにすぎないとする原告の主張は、その前提において誤りがあり、到底採用することができない。

また、原告の、別表2に基づく、横溝の存否によってそれぞれが独立した意匠登録が行われた旨の主張、上記の審決の判断が、意匠の創作性に特許又は実用新案の創作性のレベルを持ち込んだ旨の主張、これらの周知例において、左右の雄接合部及び雌接合部と一体になった横溝の形態が、ある程度知られるに至ったことを意味するだけである旨の主張は、いずれも上記説示に照らして、採用できないことが明らかである。

2 さらに、審決は、「両意匠はその施工後の態様に多数の横溝が等間隔に表れるものでもあり、結局、表面の略中央の横溝の有無による差異については、前記に共通するとした全体の基本的構成態様に包摂されてしまう程度のもの」(審決書16頁12~16行)と判断するところ、原告は、使用の段階ではこの判断に誤りはないが、施工を終了した段階では、要部である断面形状を観察することは不可能であるから、建築用内外装材の意匠を特徴づける断面形状は、必然的に使用前の製造及び譲渡の段階における実施例において判断されることとなり、使用段階における接続状況を問題とすることに意味はないと主張する。

しかし、審決は、前示のとおり、まず、建築用内外装材の意匠を特徴づける断面形状において、本件意匠のように「表面材のほぼ中央に略倒コ字状又は略台形状の横溝を設けること」が周知である旨を判断し、その上で、施工後の態様についても考慮したものであるから、原告の非難は失当というほかない。

したがって、差異点〈1〉に関する審決の判断(審決書15頁7行~17頁6行)にはすべて誤りはない。

3  取消事由3(雄接合部及び雌接合部の誤認及び評価の誤り)について

1 原告は、本件意匠と甲号意匠とが、ともに雄接合部において先端突出部分、中段突出部分及びその接続領域が存在する点において共通することを認めながら、その具体的形状が相違することにより、本件意匠が、上下方向及び左右方向において起伏に富んだ印象を与え、また、中段突出部分が上下方向においてバランスある印象を与えるのに対し、甲号意匠が、起伏に乏しい印象を与え、また、全体としてずんぐりとした印象を与えていると主張する。

しかし、原告が指摘する、本件意匠と甲号意匠との雄接合部における先端突出部分、中段突出部分及びその接続領域での具体的形状の相違は、いずれも当該部分を子細に対比観察してみて認識できる程度のわずかな差異であり、前示の共通する基本的構成態様を考慮すれば、この差異によって、看者が、原告主張のような顕著な別異の印象を受けるものとは到底認められないから、その主張を採用する余地はない。

2 また、原告は、本件意匠と甲号意匠とが、ともに雌接合部において表面側突出部分、裏面側突出部分及び両者の間に介在している嵌合凹溝が存在する点において共通することを認めながら、その具体的形状が相違することにより、本件意匠では、上下方向において起伏に富んだ印象を与え、また、嵌合凹溝が上下方向においてバランスある印象を与えるのに対し、甲号意匠は、そのような印象を与えないと主張する。

しかし、前示雄接合部の場合と同様に、雌接合部における表面側突出部分、裏面側突出部分及び両者の間に介在している嵌合凹溝の具体的形状の相違は、いずれも当該部分を子細に対比観察してみて認識できる程度のわずかな差異であり、前示の共通する基本的構成態様を考慮すれば、この差異についても、看者が顕著な別異の印象を受けるものとは認められないから、この主張も採用する余地はない。

3 さらに、原告は、審決が、甲号意匠の雄接合部において、中段突出部分が上下方向中央に位置していないにもかかわらず、「左辺中央で略矩形状に折曲して突出部分を形成し」(審決書12頁10~11行)と認定し、この認定を両意匠の共通点と認定した(同13頁9~10行)点を誤りであると主張するが、審決は、中段突出部分が、裏面側突出部分も含めた雄接合部全体の端部に位置するものでないことから、「中央」と認定したものであり、正確な中心部分よりやや裏面側に位置することを考慮しても、その認定が誤りということはできない。

また、原告は、雄接合部の中段突出部分における表面側辺と裏面側辺の長さの相違について認定・評価を行っていないと主張するが、両者の長さの相違は、極めてわずかなものであり、意匠の類否の検討に当たって、あえてこの点を認定評価しなかったことに違法はない。

つぎに、原告は、甲号意匠において、雌接合部の嵌合凹溝が上下方向略中央に位置していないにもかかわらず、「右辺中央で略逆コ字状に折曲して嵌合凹溝を形成し」(同12頁14~15行)と認定し、この認定を両意匠の共通点と認定している(同13頁13~14行)点も誤りであると主張するところ、確かに、嵌合凹溝は「右辺中央」より裏面側に位置しているものと認められるが、このような嵌合凹溝の設定位置の認定に関するわずかな不正確性が、意匠全体の類否判断に及ぼす効果は極めて軽微なものといえるから、審決の結論に影響を与えるような違法は認められない。

さらに、原告は、甲号意匠の雌接合部の裏面側突出部分が重ね折り返しのため、先端が湾曲した略I字形状を呈しているにもかかわらず、「略U字状に裏面側へ折り返し」(同12頁16行)として、あたかも一定の厚みを有しているかのように認定し、この認定を両意匠の共通点と認定している(同13頁15~16行)点において誤っていると主張するが、審決は、裏面側突出部分の板材の重ね折り返しをもって「略U字状」と認定したものであり、これを「略I字形状」と否定するのは、まさにためにする非難というべきであって、到底採用することのできない主張といわなければならない。

4  原告は、審決の差異点〈2〉及び〈4〉に関する判断(審決書17頁7~10行)について、雄接合部及び雌接合部以外の領域の占める割合が全体形状の中で大きいとしても、当該領域自体が意匠の特徴点として、看者に格別の印象を与えるわけではなく、雄接合部及び雌接合部が要部に該当することは否定できないから、上記の判断は誤りであると主張する。

しかし、審決の上記判断は、この種物品において雄接合部及び雌接合部が要部に該当することを否定したものではなく、雄接合部及び雌接合部における、本件意匠と甲号意匠との突出片及び嵌合凹溝の傾斜角度の差異並びに突出部がU字状か否かの差異が、いずれも微弱な差異であると認定したにすぎないものであるから、原告の主張は失当であり、これを採用することはできない。また、原告は、審決の差異点〈5〉に関する判断(審決書17頁19行~18頁6行)について、裏面側突出部分の折り返し部分の長さを、表面側突出部分との対比においてどの程度とするかは、建築用内外装材の形状に関する事項である以上、これが常套手段であるとしても、意匠の類否判断と無関係であるとはいえないと主張するが、このような折り返し部分の長さの変更が、極めて普通に行われている常套的手段であるとすれば、看者に強い美感を惹起するものではなく、それが類否判断に大きな影響を与えるものでないことも明らかであるから、上記判断に誤りはなく、この点に関する別表1に基づく原告の主張も含めて、これを採用する余地はない。

4  以上のとおりであるから、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

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